「毎年1億売る部下を4人育成せよ!」 ~口下手な中西龍一の営業マネジメントとリーダーシップそして勇気と次の一歩を少々~
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序章
中西龍一は、人見知りだ。
中西龍一は、口下手だ。
中西龍一には、自信がなく、
中西龍一には、体力もなかった。
教育の環境には恵まれず、
切り拓くべき未来など、
中西龍一には無かったのだ。
中西龍一は、広島の公立中学校に入学し卒業した。
中西龍一は、県立の工業高校に入学し卒業した。
思春期の思い出など、殆どない。
思い出せるのは、眠っていたことくらいだ。
中西龍一の職場は、
穏やかな瀬戸内海に面していた。
果てしない空から、純白の朝日が登った。
果てしない海へと、黄金の夕陽が落ちた。
洗ったような月が、黒い海を銀色に照らした。
洗ったような月が、濃紺の海を銀色に照らした。
そしてまた、朝日が登った。
まるで、黄泉の国だった。
黄泉の国にある中西龍一の仕事場は、
潮の香りと死の臭いが混じり合っていた。
爆発や転落死が日常だった。
火の海や海底への溺死が、
中西龍一をかすめ、すり抜けてゆく。
死が、あと10センチメートルだ。
死へ、10秒もかからない。
溺死はさほど、怖くない。
30秒もすれば、気絶出来ると聞いたからだ。
本当に、怖いのは、
皮膚が焼き流れる焼死だ。
本当に、苦しいのは、切断や、不随だ。
「死ぬかも知れない」と、中西龍一は考えた。
「死とは何か?」の問いは、
一度も思考の地平には現れなかった。
高校を卒業した日から10年間、
他に選択肢のない中西龍一は、
無目的に、無気力に、働いたのである。
しかしある日、中西龍一は忽然と
「黄泉の国」から姿を消した。
人のあても、金のあても、仕事のあてもない、
長野を目指したのだ。
何故か? 「生きる」ためだ。
4 億年前に、死を待つばかりの魚が勇気を出し、
水中から陸上を目指したように。
無口な中西龍一は、営業マンになった。
人見知りの中西龍一は、
フルコミッションのセールスに転身した。
4年が経ち、訪問販売で、4億の数字を残した。
中西龍一は【変身】したのである。
中西龍一は、何人もの部下を、
毎年1億売る「人才」へと育成した。
毎年1億売る「人才」を養成出来る
「人財」を、育成した。
かつての自分のように無目的な「人材」を。
長引く引きこもりで生存しているだけの「人在」を。
外見も素行も家庭にも問題のある「人罪」を。
中西龍一は【変身】したのである。
今、中西龍一は、営業マンではない。
今、中西龍一は、部長でも課長でもない。
現在、中西は、上場企業の営業マンを指導し、
毎日の様に、中小企業の社長の相談に乗る。
講演の姿は大きなスクリーンに映し出され、
立派な会議室で、研修を実施する。
多くの受講生から相談を受け、
会えば「人生が変わった」と、泣かれる。
あれだけ「自分を変えられなった」中西龍一が。
中西龍一には、登記簿謄本の肩書しかない。
資格はない。
格好の良い何とかコンサルタントでもない。
学歴もなく、身寄りもなく、信用もなかった。
根性もなく、体力もなく、目的もなかった。
しかし、中西龍一は、働く目標を得た。
働く技術を得た。
働く仲間を得た。
魂が肉体から消えるその寸前に
「黄泉の国」から抜け出し、
山道や農道や雪道を這いつくばりながら、
中西龍一は、中西龍一を、改造した。
そして「働く自分」を得たのである。
中西龍一にとって、
「中西龍一」は与えられたものではない。
獲得したのである。